『ムッシュー・テスト』ポール・ヴァレリー著/清水徹訳(岩波文庫)

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新訳にあたって訳者の清水さんはつぎのように解説している。

 小説『ムッシュー・テストと劇場で』 La soir仔 avec Monsieur Teste は、昭和7年小林秀雄訳以来、ずっと「テスト氏との一夜」という邦題が行なわれてきた。このたび新訳を行なうにあたって訳題をなぜ変えたかについて書いておく。
 まず標題の中の Monsieur Teste の Monsieur という語について。(中略) “Monsieur”という言葉は、ただ「……さん」というだけではない。たしかに“Monsieur”は男性の苗字とともに用いられる一般的敬称であり、たとえば手紙の宛名書きにおいて日本語では「……様」と書くところにフランス語では Monsieur... と書くが、他方で、この語だけを単独で用いて、物腰や話し方が、教育を受けた、あるきちんとした身分の男性を指すという用法がある。そして、きちんとした身分の男性はしばしばもっともらしいことから、この語には、あえて言えば「ご立派な紳士」あるいは「おっさん」とでもなるような、わずかな軽蔑ないし喜劇的なニュアンスが加わることがある。別の角度から見れば、「ムッシュー」というのは、あるいは「ムッシューだれそれ」という言い方は、英語の「ミスター」がそうであるように、まさしく「プチブル」の指示語である。(187−189頁)

 「テストおっさん」。まるで別の作品だよ、これは。
 精神的な危機からくる内省が、「科学」との緩やかでありながら、しかし確実な関係性を築いてゆく思索過程を綴っている本著。私にはいまだによくわからない箇所がいくつもある。要熟読。