『僕はどうやってバカになったか』マルタン・パージュ著、青土社

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細部に面白さが仕掛けてある小説なので、あらすじを紹介をしても本書の魅力がどこまで伝わるかどうか疑問ですが、... 自殺願望や薬物依存などは、日本でもおなじみの素材ですが、本書での扱い方は軽やかで、主人公を通してかいまみえる著者の精神は、病的なところがありません。いたって健全で、気分よく読み進めます。... 主人公だけでなく登場人物の設定が、どれも面白い。... 知性をめぐる、すなわちバカをめぐる主人公の多角的な考察は、本書の核心ともいえるもので、明晰な中にも、どこかおかしさがただよっています。... 物事をリアルに描きだしていこうとするよりは、知的な処理をして、いわば寓話的に物語を組み立てていく、というのは、現実世界の経験が少ない若い書き手の選択として、賢明だったといえるでしょう。... 主人公は、「バカになる」べく友人の経営する会社に入ります。... あちこちにちりばめられたインテリっぽいくすぐりも、前提となる知識があれば大いに楽しめる... バカになろうとする前の主人公の愛読書が、「フロベール書簡集」だったり、アルバイトが「失われた時を求めて」のアラム語への翻訳だったりなんて、なかなかしぶいじゃありませんか。

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