The Doggish Days 2004年09月02日

from The Doggish Days 2004年09月02日 オールドメディアの世界 http://yellowdude.mods.jp/archives/000037.html

 僕が一九九九年まで働いていた職場は、創立百年を遙かに超える古い新聞社だった。いま仕事をしているIT業界と比べても、たぶん平均年齢は15歳ぐらいは高い。しかしその分、一般社会ではすでに消滅したようなさまざまな職人、奇人が古いビルのあちこちに生息していた。何しろつい最近まで、紙面を手作業で作っていた会社なのだ。夜半の締め切り間際、記事の直しを入れようと制作局に行くと、職人肌のおじさんが「ほいよっ」と鮮やかな手さばきでカッターナイフを振るい、記事の途中をうまく削って直し部分を張り込んでくれた。

 それでも、そんな世界にもコンピュータの波はやってくる。初めてワープロ専用機が導入されたのはもう十五年も前になるが、最初のころの騒ぎはまるで明治維新の文明開化のようだった。(…)

 右手の指一本でキーボードをさみだれに叩き、「使えねえっ」と液晶をげんこつでゴンゴン叩いていた初老の記者。若手がてきぱきワープロを操作しているのを見て、「バカヤロー。ワープロ使えるからって特ダネが取れるか!」と怒鳴ったベテラン。僕がワープロで印字して原稿を見せたら、「何か活字だと立派な原稿に見えちまってけしからん。手書きで出し直してくれ」と、むっつりした顔で原稿用紙を突っ返したデスクもいた。