大西泰斗さん:インタビュー

大西泰斗さん:英語タウン インタビュー
http://www.eigotown.com/culture/people/onishi.shtml

Q.「ネイティブ的な感覚」を身につけるための英文法の理論は、どのように生まれたのでしょうか。

A. きっかけは、大学での授業です。中級レベルの学生をどうやったら引っ張り上げられるのか、教壇に立つようになってからずいぶん考えました。もちろん中級レベルですから、高校の英文法などはほとんどわかっている、大学受験もくぐり抜けてきた、だけどサッパリ英語はできない。いったい何が足りないんだろう、と。

結論から言えば、「全部」抜け落ちているんですよ。言葉が使われる状況も、感触も、何もかも抜け落ちた、骨格標本のような文法規則しか頭に入っていない。単語をある程度知っていても、それが実際どんな感触で使われるのか、一番肝心なことが抜け落ちているんです

相手の表情、相手との人間関係、発音のされかた、その文の使われ方と前後の文脈、そうしたものが無数に折り重なって、確固とした語感が築かれる。使うべき場所がわかってくる。「形式主語」といった貧弱な規則や日本語訳を頭に入れただけでは、まともに英語を使えるわけがありません。

私は「理論」を作っているつもりはなくて、今までこぎれいに整理・整頓されてきた―そしてその結果まるで使い物にならなかった―知識を、語感の混沌の中に一度戻してあげているのです。

現在の、英語の学習書や教材などの執筆の素地を作ったのは、大学院での言語学の研究よりむしろ、昔から好きだった国語―特に古典―であるように思います。

古典文学を読むときには、よくわからない表現を類推しながらその感覚を探っていく力がどうしても必要になりますから。ただし、言語学者の卵としてたたき込まれた「合理精神」―いつでも合理的な理由を探し、健全な議論を組み立てる―も、大いに役立っています。

Q. 翻訳家など「英語のプロ」になりたい人へのアドバイスをお願いします。

A. 私もときどき遊びで詩を翻訳したりしますが、その中で思い知ったことは、「翻訳は英語を日本語にする(あるいはその逆)だけの作業じゃない」ということです。むしろ「英語を書く」能力が問われていると思います。
作者と同レベルの英文が書ける人間が読んで初めて、「なぜここではこの単語・この文型を使わなければならなかったのか」という必然が見えてくるのです。そこでようやく満足な日本語が生じる。会話文が出てくる翻訳ならさらに「英語を話す」能力すら問われるでしょう。

大西泰斗(おおにし ひろと)氏ホームページ:http://www.englishatheart.info/
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