黒田東彦『財政金融政策の成功と失敗』

財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済

財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済

著者の黒田東彦[クロダ ハルヒコ]氏は、大蔵省主税局、国際金融局などを経て、1996年同財政金融研究所長、1997年同国際金融局長、1998年同国際局長。1999年財務省財務官を経て、2003年3月内閣官房参与と一貫して政府の金融政策の現場にいた人物である(現在は退任)。
そのため、第11章「1999‐2004:「超ゼロ金利政策」から「量的緩和政策」まで」の記述は「政府=財務官」という視点から描かれており、日銀の金融政策を厳しく批判している(日銀の「良いデフレ論」批判)。しかしながら本書のタイトルは『財政金融政策の成功と失敗』である。財政政策についてほんの少ししか触れないのは片手落ちであり、それまでの章のバランスのとれた記述の信頼を損なうものとなっている。
基本的な事実の確認として、2001年以降のGDPを見てみる(※1)。豊かさを示す名目国内総生産は、2001年/01-03月期は 515.9兆円だった。それが現在2005年/04-06月期(速報値)は 508.2兆円に減少している。これは日銀を中心とする金融政策だけの失敗ではない*1。国民の富(名目国内総生産)が減少した原因は財政政策にもある。
それは数字にも表れている。たとえば、内閣府が発表しているSNA統計だ(※2)。この表の中では「公的需要」の部分に注目してもらいたい。「公的需要」とは、単純に言えば、政府がどれだけ(直接的に)経済成長に寄与したかを表している。この表を見ればわかるように、2001年以降、小泉政権になってからは成長率は常にマイナスとなっている(名目値)。名目値で常にマイナスということは、実際の金額ベースで減り続けているということである。
成長率がマイナス、失業率も高止まり、のときにこのような政策をとればどうなるのか。当然、景気はますます冷え込む。もちろん、この背景には巨額の財政赤字を減らすための諸策があることはわかっている。しかし、この時期に政府自ら景気を悪化させる政策をとるべきではなかった。2001年以降のGDPの推移を見ていると、そう思わざるを得ない。
黒田東彦氏の『財政金融政策の成功と失敗』には、こんな基本的なことすら書かれていない。非常に残念である。


※1 GDP(NIKKEI NET):http://rank.nikkei.co.jp/keiki/gdp.cfm

※2 四半期別GDP速報(名目):http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe052/nnen.html
  ここでは、政府の「設備投資」である「公的固定資本形成」が2004年度では−15.1%である点に注目。これは、政府が景気に急ブレーキをかけていることを示している。また、GNPデフレーターが継続してマイナスであり、デフレが解消したわけではないことを示している。
   四半期別GDP速報(実質)http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe052/rnen.html
【参考】経済指標の見方・使い方http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2001jun/shihyo/

*1:福井総裁へバトンタッチしてからは、金融政策はかなり成功している。