書評:『イノベーションの収益化―技術経営の課題と分析』(榊原 清則)
- 作者: 榊原清則
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2005/12/01
- メディア: 単行本
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『イノベーションの収益化―技術経営の課題と分析』榊原 清則 著、有斐閣
現在多くの日本企業が、「優れた技術が高い収益に結びつかない」という現象に苦しめられている。本書は、そうした現象を深く分析し、イノベーションの収益化をどう実現していくかを論じた力作である。
全体は、イノベーションの収益化についての先行研究をレビューし、日本企業の技術経営課題を展望した第(1)部、イノベーションの収益化のベストプラクティスとしてキヤノンとインテルの事例を分析した第(2)部、そしてイノベーションの収益化をめぐる課題と克服の方途をさぐった第(3)部の三つの部分から構成されている。
全体の内容を少し詳しく紹介していこう。
まず第(1)部では、イノベーションの収益化を中心に、日本企業の技術経営課題を明らかにしているが、この部分は技術経営を全体として展望できる優れたレビューともなっている。
しかし、著者独自の分析が展開されるのは、それに続く第(2)部以降の部分である。
第(2)部のキヤノンの分析では、インクジェットプリンタを事例に、製品アーキテクチャの変更などの製品開発への取り組み方次第で、収益構造は変えられることが強調される。また、インテルのマイクロプロセッサの事例では、技術を収益に結びつける多様な戦略的要因が解明されるとともに、技術の全社的な意味づけの重要性が明らかにされている。二つの事例とも、公表されたデータに基づきながら、技術経営に依拠した収益化の方策を明快に示唆している。
続く第(3)部では、「寿命」と「統合型企業のジレンマ」をキーワードに、イノベーションの収益化をめぐる課題と克服の方途を明らかにしている。特に時計産業を事例にイノベーションのコモディティ(日用品)化の論理を分析した「統合型企業のジレンマ」の部分は、現在の日本企業の課題を適切に把握したモデルといえ、その克服の方途を含め、示唆に富む箇所が多い。
本書は本格的な研究書として出版されたものではあるが、記述は平明で結論も明快であり、多くの技術経営に関心をもつ関係者に一読を薦めたい。
提示された収益化のための諸方策は必ずしも網羅的でなく、またそのすべてが速効性のある処方箋とも言えないかもしれない。そのことは著者も十分に意識しているのではないか。むしろ本書の価値は、技術経営の各々の課題に対し、読者の側により深い思考を喚起する点にある。すべてを読み通すことは必ずしも楽ではないが、その見返りは必ずある好著である。【評者 大滝精一(東北大学大学院経済学研究科教授)】
■2006/01/31, 毎日エコノミスト