『孤独なボウリング 米国コミュニティの崩壊と再生』

バート・D. パットナム(Robert D. Putnam)著、柴内 康文 訳、柏書房、2006 

孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生

孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生

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社会関係資本を失った米国、回復への道を探る
「情けはひとのためならず」という言葉がある。直接何かがすぐ返ってくることは期待しないが、めぐりめぐっていずれはなんらかのかたちでお返しがあるということを信じて、なにかを提供するような行為の連鎖のことを、専門用語で「一般的互酬性」という。
物々交換よりも貨幣のほうが効率が良いのと同じように、この一般的互酬性に拠る社会は、それを欠く疑り深い社会よりも効率が良い。そしてこの一般的互酬性の態度は、選挙への参加から友人との食事までを含むさまざまなレベルでの社会関係への参加を通じて育まれる。
つまりきちんと投票に出かけ、機会があれば献血をし、PTAの会合に出席して、友人としばしば会食をする人が多い社会は、そのぶんだけ取引費用が低く、効率的で高信頼な社会、いわば「社会関係という資本」の蓄積が厚い社会なのである。
そして著者は厖大なデータの分析から、米国社会は、20世紀の最初の3分の2の期間、着実にこの社会関係資本を蓄積してきたが、最後の3分の1の期間に急速にそれを失ってきたと主張する。
この主張は、1995年に論文のかたちで発表されると、たちまち大反響を呼んだ。本書は、その5年後に400ページを超える本格的著作にまとめられた完全版の翻訳である。
本書の分析の直接の対象は米国社会だが、少しの読み替えで、まるで日本のことであるかのような記述に満ちている。
(中略)
分厚く、価格も安くはないが、決して専門家にしか読めない本ではない。そして翻訳が舌を巻くすばらしさだ。幅広い読者の関心に応える一書である。【評者 北海道大学助教授 山下範久