「良い」戦略とは何か:ダブル・スタンダードのはざまで(岡田正大)

「良い」戦略とは何か:ダブル・スタンダードのはざまで(評者:岡田正大 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 助教授) http://www.dhbr.net/booksinreview/bir200609.html

日米対立の二元論に陥らず、バランスの取れた世界的視点から企業概念(企業はだれの利益を最大化すべきか)を俯瞰するうえで大いに役立ったのが『日米欧の企業経営』である。(中略)
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『日米欧の企業経営』吉森賢 著、放送大学教育振興会、2001 ASIN:459512693X
 著者によるある研究では、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、日本の五カ国の経営者と管理者に対して、「資本主義下においては企業の所有者は株主である。したがって株主の利益が最優先されるべきだ」という命題をまず示す。この命題を肯定する比率は、アメリカ七六%、イギリス七一%、フランス二二%、ドイツ一七%、日本二・九%という結果であった。
 次に示された命題は、行動レベルの究極の選択である。経営者が配当を減らすか、従業員の一部を解雇するかの選択を迫られた場合、「従業員の一部を解雇してでも配当を維持する」と答えた比率は、アメリカ八九%、イギリス八九%、フランス四一%、ドイツ四〇%、日本三%だったという。
(中略)
 この点について著者は、日本においては労働市場アメリカほど発達しておらず、フランス、ドイツの企業概念は法的に制度化されていて、共にその改変には大きな困難を伴うと言う。また一国における企業概念は、その国の長い歴史・経済・社会・文化的要因により形成されていて、一朝一夕に変更できるものではない。
 これを踏まえ、「企業はだれの利益を最大化すべきか」という問いに対して著者は、「企業概念には一長一短があり、特定の国の企業概念が唯一絶対的基準とはなり得ない」とする。そして、日本の経営者は一時的な経営環境のよし悪しに惑わされず、新たな経営環境に照らして捨てるべきものは捨て、残すべきものは残し、取り入れるべきものは新たに導入して「角を矯めて牛を殺す」過ちを犯してはならないと警鐘を鳴らす。