『書を読んで羊を失う』(鶴ヶ谷真一)

書名は『荘子』駢拇篇*1 にある「讀書亡羊」の故事*2 による。
なるほど、平凡社ライブラリに入るだけあって書痴な皆様向けの話、へ〜という話がたくさん。

  • 和本に銀杏や朝顔の葉がたくさんはさんであるのは紙魚(シミ)防止のためであった(「枯葉」12ページ)。そのことを荷風の随筆『冬の蠅』所収の「枯葉の木」で知った。
  • 「ページのめくり方、東西」では、縦書き本は左ページ地のところでページをめくるのに対して、横書きは右ページ天でめくるとの考察がなされ、言われてみればそうだと思う。
  • 須賀敦子のお父上、養老孟司センセイに引き続き、著者がこう書いているのを見つける。「二十歳のころ、名だたる鴎外の史伝を読もうと思い、『澁江抽齋』を開いたが、正直なところ、どうしてこんなものが面白いのだろうかと考えた。ところが三十代になってから、こんなに面白いものはまたとあるまいと思うようになった」。ふむ、年齢と旬の書物は相関があるということかしらん。
  • 「筆名と異名」では、いろいろな筆名の由来を知ることができる。清水三十六(さとむ)は担任の水野実先生に「君は小説家になれ」といわれ、質屋、山本商店に住み込みながら文章修行に身を入れる。そして文壇デビュー。恩義を受けた質屋主人の名を借りて、山本周五郎を筆名とした。▼岡山の百ケン川から内田百ケン(門+耳)▼直木三十五は31歳のときに名を三十一とし、その後年齢と共に数を増やし、三十四を飛ばして三十五に落ち着いた。ま、これは有名ですね。▼くたばってしまえ、という自嘲の語呂合わせから二葉亭四迷エドガー・アラン・ポー江戸川乱歩司馬遷司馬遼太郎、がリスペクト系▼筆名は1つでありながら、生涯に6つの本名を持った作家が立原正秋(たちはらまさあき)。
  • 「草木の名」では、夏目漱石は稲(苗)を知らなかった、三島由紀夫は松の木を知らなかったことが描かれている。うーん、これは本当に知らなかったのかなぁ。

書を読んで羊を失う

書を読んで羊を失う

増補 書を読んで羊を失う (平凡社ライブラリー)

増補 書を読んで羊を失う (平凡社ライブラリー)

*1:【駢拇枝指(ヘンボシシ)】駢拇は、足のおや指と第二指とがくっついていること。枝指は、おや指の横に余分な指があること。いずれも役に立たないもののたとえ。〔荘子

*2:羊を牧していた男が読書に夢中になるあまり、肝心の羊がどこかへ行ってしまったことにも気づかなかったという話