『経験価値マネジメント:マーケティングは、製品からエクスペリエンスへ』 → 原書

バーンド・H・シュミット(Bernd H. Schmitt)著/嶋村和恵・広瀬盛一 訳。顧客経験価値を製品開発やマーケティングに生かした企業やブランドの事例を多数紹介し、実践方法を解説する。
→あとがきを立ち読みしたところ、experience を「経験」とすると「体験」とするか非常に悩んだと書いてあった(最終的に「経験価値」となった)。では、experience(エクスペリエンス)とはそもそもどういうものなのか。わかりやすい実例がNIKKEI NET BizPlusの「ユーザーエクスペリエンスとデータ活用」にある。
「漠然とした購入意向を持った顧客が、店舗に足を運んだとする。店に入ると、顧客は店内の温度、におい、雰囲気、品ぞろえ、店員の態度などを、肌で感じとる」
これが、エクスペリエンスである。これを「経験」あるいは「体験」と呼んでいいのだろうか? なんでもかんでもカタカナ語にしてしまうのはよくないが、experience が持つ本来のニュアンスを消し去るような訳語を使うのもよくない。国立国語研究所の外来語言い換え案みたいなものだ。
(追記)ユーザーエクスペリエンスに関するページ:使いやすさ研究所、「明示的に宣言されます。」の ユーザーエクスペリエンスの投資対効果。
ちなみに、同書はダイヤモンド社の立ち読みコーナーで、第1章を10ページ(pp.3-12)読むことができる。たった10ページなのだが、本書の英文和訳のレベルを知るには十分だろう。
3ページ 6行目:「このような宣言」が前段落(1章冒頭)の何を指しているか不明。「顧客が重要である」を指しているような気もするが、そうすると文章が変だ。「顧客が重要である」というのが「宣言」の内容なのか?
3ページ:「顧客視点」とあるが、これは view of customers の訳語だろうか? 「顧客に対する視点」なのか「顧客(自身)の視点」なのか。どっちなのか。そもそも「顧客視点」とは何なのか?
4ページ:「ロイヤリティ」と「忠誠心」があるが、きちんと使い分けているのか?
5ページ:「配信中止」機能 とあるが、よく目にするのは「配信停止」ではないのか? まあ、これは「中止」でもいいことにしよう(「配信機能を稼働させない」と誤読することはないので)。
6ページ:「特定の顧客接点で偶発的な失敗が起きた」の「顧客接点」は意味不明?
7ページ:「もっとも顧客にアンフレンドリーな業界でも」とあるが、「アンフレンドリー」なんて、、、もう少しこなれた言い方はないのだろうか?
8ページ:「典型的な駄目ファストフード」。これはちょっといただけない(少なくともこの本のような、堅めのビジネス書では)。
8ページ:「経験価値のあらゆるステップを考えつくしている」。「価値」にどういうステップがあるのか? この時点でこの訳語は破綻していると考えると考えるべきではないのか。
9ページ:「... これらの企業は、とびきりの顧客対応を実現した」。これは「顧客に対して最大級のサービスを提供していた」とか、もっと普通の日本語にならないのか?
立ち読みPDFはあと2ページ残っているが、もういい。原書はなかなか良さそうな本なのに残念だ。