この本に託した狙い、『ディジタル著作権 二重標準の時代へ』(名和小太郎)

みすず書房 HP より

本書のタイトル『ディジタル著作権』は「ディジタル」と「著作権」という二つのキーワードに分解できる。まず「著作権」について。ここでは著作権法とは言っていない。つまり、この本は著作権法という法律だけではなく、著作権にかかわる思想、規範、慣行、技術、システム、ビジネス、あるいは公衆の行動を論じるものである。
つぎに「ディジタル」。現在の著作権法は、ディジタル技術の発達によって権利者と著作物のあり方が多様化したために、きわめて精緻なものになってしまった。……
したがって、つぎのような状況が生まれた。まず、精緻になったことにより、現行の著作権法は一握りの法律家、企業法務担当者にしか理解できないものになった。密室化してしまった。これにともなって、著作権制度はレイパーソンつまり俗人には理解を絶するものになった。ここにいう俗人とは、法律に関する非専門家、つまり法律に疎い素人あるいは門外漢という意味である。いうまでもないが、この俗人にはビジネスや技術の専門家も、あるいは芸術家や趣味人も、さらには学生や市民活動家も入っている。
この俗人が、現在、意識するしないにかかわらず、その著作権法にコントロールされるようになった。なぜならば、現代の知的生活は、それが職業的なものであれ趣味的なものであれ、著作権ビジネスと絡むようになり、その著作権管理システムの監視下に置かれるようになったからである。これを気味悪いと受け取り、うろたえている諸姉兄がいるかもしれない。そのような諸姉兄のための一冊を。これが私がこの本に託した狙いである。この意味では、この本は「著作権批評」というべき特性をもつものである。
(「はじめに」より抜粋)