『要塞都市LA』青土社

マイク・デイヴィス 著、村山敏勝/日比野 啓 訳、2001.03刊
46判型、468頁、本体価格3400円、ISBN:4791758781
これはSFではない、都市の現実なのだ。グローバル化する資本主義の到達点としての未来都市・ロサンゼルス。ユートピアディストピア、理想主義と権力闘争が混在し、七色に変化する〈水晶の都市〉にアメリカの光と影が交錯する___SF的想像力と最先端の社会科学を駆使し、21世紀の社会像を見通す、全く新しい都市論。


西都市対決  暗黒都市ロサンジェルスと魔術都市ワシントンDC
text:大串尚代(慶應義塾大学
http://www.flet.keio.ac.jp/~pcres/history/reviews/cities.html

土地へのこだわりは、第三章「家からの革命」で描かれるロスの郊外住民にも共有される意識だ。郊外の分離主義と土地の資産価値への執着が、戸建ての住宅所有者の意識をのっとってゆく。「ロサンジェルスにおいて『コミュニティ』とは人種、階級、とりわけ住宅価値の均一さを意味する」がゆえに、コミュニティからよそ者は排除されなければならないのだ。この白人保守中産階級の権力闘争とコミュニティへの執着は、第五章「ハンマーとロック」に出てくる警察組織と追いかけっこを繰り返すストリートギャングの縄張り争いと絶妙の呼応をなしているように思われる。よそ者(逸脱者)を排除しロスを掌握しようとする警察と、麻薬や暴力によって勢力を拡大し縄張り(=コミュニティ)を獲得しようとするギャングスターたちは、あるいはその目的が同じであるがゆえに、「世代全体がコントロールできないアルマゲドン」へとロサンジェルスを導いていくことになるのである。
第三章と第五章の対照性をあらわすかのごとくひときわ印象的にそびえ立つのは、この二つの章に挟まれた第四章「要塞都市LA」である。かつて白人中産階級ユートピアであったロサンジェルスは、いまや「都市計画、建築物、そして警察機構が一体になるという前代未聞の」様相を呈すのである。それは具体的にいえば「外人部隊の要塞」に似せて設計された図書館であり、警察による貧困地区への立ち入り禁止であり、一望監視施設ショッピングモールである。「ポスト・リベラル」都市ロサンジェルスは、都市そのものが要塞と化す。コミュニティを囲い込み、空間警察がその目光らせている。だがここでデイヴィスの都市論にひねりがきいていると思われるのは、要塞と化したロスを単に「監獄都市」として位 置づけるだけではなく、ロスの監獄が逆に「審美的な対象になりつつある」点を指摘しているところだろう。

▼そういえば、桑沢デザイン塾で講師(名前が思い出せない。。 平井玄さんでした)がこの本を取り上げていたことを思い出した。▼現代思想 2003年10月号 特集「グラフィティ マルチチュードの表現」の記事「街路の世界性 段ボール・ペインティングからストリート・パーティへ」(平井玄)が面白かった。

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