美代子、石を投げなさい (荒川洋治)

荒川洋治全詩集 1971-2000』←故 安原顕のレビューが読めます。

あとがき


小学五年生の「夜の道」から、最新の詩集『空中の茱萸』まで、みんなはいってしまった。二○世紀中に書きつけたぼくの言葉がほとんどおさまったことになる。これが「全集」の現実である。茫然とする。
二○代の終わりごろに思った。せっかく詩を書くのだ。これまでに見たことも聞いたこともない詩をつくってみようと。そのためには自分の詩が変わることだ。詩集を出すたび、一冊ごとに、詩のすがた・かたちを変えた。その計画だけで、ぼくの朝夕の心はみたされてきたといってよい。
はっきりと見える詩が、書きたかったのだ。でも急激に変わるときだけではなく、ゆるやかに変わるときも言葉というものが見えて楽しかった。
いつでも、そしていつまでも、「詩は詩集のなかにある」と思う。そして全詩集こそが「一冊の詩集」なのだとしたら、ここにはほんとうに詩が「ある」のか「ない」のか。それを作者自身が知る機会でもある。どちらであるにしても、それはぼくにとって意味のあることである。全詩集を企画してくださった思潮社の小田久郎さんに感謝する。
新世紀も詩の世界をつくりたい。楽しみたい。茫然としたい。


二○○一年四月一五日  荒川洋治

【最新作】『忘れられる過去みすず書房、2003.7
はてな言及】:id:Etsuko:20040403#p2

荒川洋治。なんていうか文字の並びさえ心地よいのですね、読んでると、旅行にもって行きたい本だよなあ、なんておもいます。この本読んでると、レモンを切ると、パアーッと香気がたつでしょ。ああいう、文章なんですね。