『文体練習』レーモン・クノー著/朝比奈弘治訳(朝日出版社)

1. 人間はたがいに狼だ。
2. 人間は人間を食いものにしながら生きている。
3. 人間はたがいにまるで狼のようである。
4. 人間は食うか食われるかの危険の中で生きている動物だ。
5. 人間はたがいにずるがしこく騙しあって油断も隙もない。
6. 人間は性質が自分勝手で狡猾で残酷で野蛮である。
7. 人間は自分の欲望のために巧妙かつ容赦なく他人を犠牲にする生き物だ。
8. 人間は自己の利益をあらゆるものに優先させ、他人の権利を侵害して、生存のためには手段を選ばないところの利己的存在である。
 これは、私が大学時代に学んでいたアメリカ文学の某教授が作成した、表現の抽象レベルをあらわした表で、数字の5を基準として、大きくなれば概念的(抽象的)文章、小さくなれば具体的(感覚的)文章に近づいていく、というものである。8のレベルが論証文、1のレベルが隠喩文として、それぞれ対極に位置しているのだが、この8つの文章が、いずれも同じことを表現していることに注目してほしい。