ロラン・バルトとジャン・ルイ・シェレルと記号論的営み

from WWDジャパン 編集長の1週間 2004年7月13日(火)

私が、このバルト一族に興味があるのは、JSLジャン・ルイ・シェレル)を経営しているということももちろんあるが、彼等が哲学者のロラン・バルトと親戚であるからだ。ロラン・バルトはその著書「モードの体系」が有名だが、「ファッションなんていうものは記号である」と語った哲学者だ。ファッションに限らず、「万物はすべて記号にすぎない」と語ろうとしたフランスの哲人(なんという大雑把な要約!!)である。このロラン・バルトについてシャルル・エドワード・バルト(JLS社マネージングディレクター)は「あの人は私の祖父のいとこだ。10才の時に死んでしまったのでよく覚えていないのだが、海軍軍人がメインストリームの我々ファミリーでは、大変評判が悪い人だった。ホモセクシュアル共産主義者ときてるんだから」と述懐する。しかし、「万物は記号にすぎない。もちろんファッションも」というロラン・バルトの教えを忠実に守っているのかどうか、JSLの今回のブライダルウエアのライセンスは、実にオリジナルのオートクチュールテイストを巧みに敷衍(ふえん)しているように見えた。ジャン・ルイ・シェレルはまだ生きている人間である。メゾンが買収され、あまり売れない服ばかり作っていたので解任された。今のデザイナーはステファン・ローランという俊英だ。シェレルは生きていても、JSLのデザインはしないが、JSLの中に記号論的に自らのDNAを残しているというべきなのか。こうしたオーセンティックできわめてわかりやすい記号論的な営みが、ファッションの世界で依然として生き続けていることに私は一種の安堵感を覚えずにいられなかった。