『所有という神話―市場経済の倫理学』大庭健 著(岩波書店)
利潤という獲物を追って、負け組になるまいと日夜走りつづける。私たちは、そこで何を犠牲にしているのだろうか。市場経済という一つの社会システムによって、環境システムは破壊され、心的システムは目に見えないままに腐食される。もろもろのシステムは、互いに汚染し合って危機は加速度的に深まってゆく。企業倫理の無残な崩壊も、さまざまな事件の背後にある自閉化も、その現れではないか。市場システムを倫理的に問うための、条件と根拠はどこにあるのだろうか。市場メカニズムを、自己組織システムの理論を援用しつつ解明し、経済行為を駆動している「所有」という観念の由来をたずねる。システムの孤立した一要素としての経済人モデルに替わって、他者たちと私との存在の相互承認に基づく平等と、そこに基礎を置く「人‐間」的関係のヴィジョンを模索する。効率性における優位は疑うべくもなく、他に選択肢はないかに見える市場システムの人間的・倫理的含意を考察する、「人‐間の倫理学」に向けて。
目次: 余剰と利潤、自己愛と共感 第1部 市場について (経済システムにおける市場/ 経済主体にとっての市場―市場経済の倫理学的アセスメントのために; 共生の強制、もしくは寛容と市場) 第2部 所有について (所有という問い―私のものは私の勝手?; 所有というナウい神話―間柄の私有化の思想史) 第3部 平等について (人はみな平等である、とはどういうことか; 機会の平等・結果の平等;人‐間的“関係”の関係―存在承認の平等) 平等の正当化