『岩波  現代経済学事典』伊東光晴 編

四六判・上製・912頁、本体 6,000円、2004年9月16日 ISBN:4000802100
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/08/0/0802100.html
えっ、46判のハードカバーなの? 
【関連リンク】Economics Lovers Live:http://reflation.bblog.jp/entry/140918/

現代経済学事典さんの謎&『諸君!』&『諸君!』冬ソナ&純愛論をコメント欄に
●ちょっと時間かかりすぎたけど書きました。少ししてから太田出版のホームページに掲載予定(そのときはここは削除)。
『岩波現代 経済学事典』(伊東光晴編、岩波書店
評者 田中秀臣
 特定のマクロ経済理論に感情的な敵意を表明し、くわえて主に60年代以前の知見に基づく日本的マクロ経済学によって変調されている不幸な「事典」である。今日の事典や辞書は厳しい出版環境にあると思う。なぜなら多くの人が言葉や事象についてちょっとした理解を求めたいときは、インターネットで検索すればかなりの精度のものを利用することができる。経済学についても無論例外ではない。そのため今日の事典や辞書には従来の便宜(正確な用語・事例の解釈)と同時に付加価値も求められている。その意味では、本事典は不幸な付加価値を与えられているといえよう。
(中略)
 いわば、この事典は、一種の経済学史事典(+おまけの応用分野)といった内容だといえる。おそらく本事典の内容を反映しているのだろう、(理由が明記されていないが)表題をよく見ると、「現代」と「経済学事典」の間がわずかに開いている。暗にこの事典の性格を示してくれているのだろう。

 ところで本事典には、マクロ経済関連の項目において先に書いたように特定の主張に対して批判的な内容となっている。そのため私は各項目の執筆者を知りたいのだが、そのような配慮はなされていない。そのためこの事典を編集している伊東氏自身がこの事典のすべての項目の内容に責任をもつものと解釈し、主に伊東氏を想定してわたしは以下でこの事典の内容を吟味していきたい。
(中略)
 要するに、伊東氏自身がインフレターゲットを考える際の貨幣数量説を間違えているのだ。このような誤った貨幣数量説の理解と証拠なき誹謗を組み合わせた発言が堂々と掲載されているだけで、わたしにはこの事典は事典たる推敲を十分に行っていないように思えるのだ。

 ところで、「供給ショックとしての相対価格変化が一般物価水準に影響を与えるモデル」で、重要な理論的・実証的な結果が明らかにされている(浜田宏一・堀内昭義・内閣府経済社会総合研究所編『論争 日本の経済危機』日本経済新聞社に掲載された飯田泰之岡田靖氏の渡辺努論文へのコメントやリジョインダーを参照されたい)。

 それは供給ショックとしての相対価格変化が一般物価水準に影響を与えてもそれは短期的なものであり、(ごく短期間をのぞき)中央銀行が金融政策によって一般物価水準をコントロールできるということである。もし編者に時代おくれの日本的マクロ経済学にとらわれることなく、「ルーカス批判」以後のマクロ経済学の動向を正しく把握し、また誤った貨幣数量説の解釈を採用しなければ、われわれと同じ結論に至ったかもしれない。しかし、そうはならなかったのは編者や執筆者よりも、この事典の利用者にとって残念なことである。