女性問題の「セカンドステージ」とは(杉本貴代栄)

女性問題の「セカンドステージ」とは ──『ジェンダーで読む21世紀の福祉政策』を刊行して(杉本貴代栄)[有斐閣書斎の窓」 2004年9月号 所収]
以下、要点(ちょっと長くなってしまいました)。

  • 1990年代に入って以降、従来フェミニズムの影響を受けることが少なかった社会福祉の領域においても、女性が抱える困難──ジェンダーから派生する問題──が取り上げられるようになった。ジェンダーを課題とする法律が次々と成立し、施工された。例えば、男女共同参画社会基本法(1999)、児童虐待の防止等に関する法律(2000)、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(2001)などある。
  • この背景には、1990年代に入ってから国連でたびたびジェンダー問題が取り上げられるようになったことがある。新エンゼルプランの策定(1999)、少子化社会対策基本法の成立(2003)に見られるように、ここに来てフェミニズムは、社会政策に大きな影響を与えるようになった。女性問題は、「セカンドステージ」に入ったのである。
  • ジェンダー政策が一定の進展を見る一方で、2000年を超える頃から「ジェンダー・バッシング」といわれるバックラッシュが盛んになった。これはさまざまな方面から展開されているが、具体的には、各自治体で進められている男女共同参画条例の制定をめぐって表面化した。2002年6月に山口県宇部市男女共同参画条例(成立)、東京都小金井市(成立)、2003年の千葉県の条例(事実上の廃案)、2004年の東京都荒川区(現状は審議中止状態)などの例がある。
  • ジェンダー・バッシング」の標的は、男女共同参画社会基本法が提起した「ジェンダーフリー」の解釈をめぐって、専業主婦の存在や「らしさ」に価値を置く固定的な性的役割分業を相変わらず支持することにあるのだが、このような旧態依然とした批判だけでなく、基本法が提起した「新たな」課題も存在する。「男女共同参画社会」という言い方は、ジェンダーフリーが実現した社会かのように見える。このため、ジェンダーから派生する困難が厳として存在することを見過ごされるようになる可能性がある。そのような懸念を抱かざるを得ない例を次に2つあげる。
  • DV(ドメスティックバイオレンス): DVとは、男女の社会的な力関係が反映されて私的な場で行われる男性からの女性への暴力であるという認識からすると、DVの法制化とは男性からの女性への暴力を防止し、男性中心の家族の規範を見直す方向に向かうことが期待されたのだが、必ずしもそうはならなかった。結局、男女を平等に扱って、一方の性を対象とした法律づくりを回避し、DVは「男女が抱える共通の問題」として捉えられ、男女を対象とする法として成立してしまったのである。
  • 児童扶養手当: 現状、児童扶養手当は母子世帯だけを対象としている。男女平等であるなら性による区別ではなく、経済的条件により区別し、父子世帯も対象とすべきであろう。別の問題も存在する。たとえ平等に手当が給付されたとしても、母子世帯と父子世帯では置かれている社会状況がかなり異なる。特に、雇用機会や賃金などは母子世帯に圧倒的に不利である。このような差別、状況は是正されるべきである。