スティービー・ワンダーが頭を振りながら歌う理由

河内 紀(ドキュメンタリー作家)×内田春菊(漫画家・作家・女優)対談
from 資生堂「WORD」 vol.40(2004年6月分)

内田 スティービー・ワンダーっていつもこうやって頭を振っているじゃないですか。あれ、なんで振っているのかを訊いた人がいるんです。そしたら、「こうして頭を振っていると自分の周りの空気が動いて、それがまた返ってきて部屋の広さがわかるんだ」って答えたらしいんですよね。(会場感動)
河内 それはそうでしょう。
内田 え! マジ? ジョークだと思ってた。本当にそう思います?
河内 もちろん。訓練すれば、人間の耳はけっこうすごいんですよ。ラジオドラマつくってたときには、そのドラマの舞台になる部屋の広さを考えますよね。ここは6畳間とか、玄関はこういうふうになっていて、間取りはこうでとか、ラジオの番組なんだけど必ず設計図をつくります。そこで喋った声がどの程度の広がりをもつかはいつも考えている。それとね、俳優が、自分が今どれくらいの部屋にいるかを考えないで喋ると、ドラマにリアリティーが出ない。俳優の頭の中にその設計図が入っていないと聞き手に部屋が想像できない。だからスティービー・ワンダーもこうやって頭を振って、自分の声の届く距離とか、その響きの限界を聞いていたんじゃないかと思うんです。