行動主義【behaviorism】

  • 有斐閣「心理学辞典」:行動主義、新行動主義、徹底的(radical)行動主義

行動主義【コウドウシュギ】behaviorism
 現代心理学における基本的方法論の一つ。科学的心理学とは行動の科学であり,その研究対象は客観的測定の不可能な意識ではなく直接観察可能な行動であり,その目的は刺激 = 反応関係における法則性の解明であるとする立場。
1912年(論文は翌年),ワトソンは,当時主流であった内観法による意識心理学に対抗し,他の自然科学と方法論を共有するためには,心理学は客観的な行動を対象とすべきだと提唱した(Watson, J. B. 1913)。
こうした考え方の背景には,生物学におけるダーウィンの進化論,パヴロフの条件反射説,デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響があったとされる。その後,ワトソンの行動主義をもとに,ハル,トールマン,ガスリー,スキナーといった人々が独自の行動理論を発展させ,それらは新行動主義と総称された。◆山田恒夫

新行動主義【シンコウドウシュギ】neo-behaviorism
 行動主義の創始者ワトソンに続く,行動主義者たちの行動理論についての総称。彼らは新行動主義者とよばれ,ハル(Hull, C. L. 1943),トールマン(Tolman, E. C. 1932),ガスリー(Guthrie, E. R. 1935),スキナー(Skinner, B. F. 1938, 72, 74)はその代表格である。ワトソンの行動主義とは,意識ではなく直接観察可能な行動を対象とする点,刺激 = 反応関係によって記述する点において共通する一方,さまざまな相違点がある。また,新行動主義者相互も,行動主義に加え,物理学における操作主義,哲学における論理実証主義の影響を受け,行動に関する包括的理論(グランド・セオリー)をめざしたという点では共通するが,それぞれ特色ある独自の理論体系を構築した。
 ワトソンの行動主義を最も忠実に継承したのはガスリーである。刺激 = 反応連合に作用する要因として,両者の接近性を重視し,効果の法則をはじめとする強化説は採用しなかった。また,効果器のたんなる活動としての運動(movement)と,環境への働きかけとしての行為(act)を区別したが,行為を運動のたんなる集合とする点もワトソン流である。
 トールマンは,全体的なモル行動に,その物理的・生理的構成要素である分子的行動にはみられない,目的的で認知的な特性を認め,それ自体客観的に記述可能であるとした。また,刺激と反応の間に,期待・動因といった論理的構成体を想定し,仲介変数とよんだ。トールマンは,手段 = 目的期待(means-end expectation),サイン = ゲシュタルト期待(sign-gestalt expectation)を重視したが,強化は必ずしも必要でないとした。
 強化説にたつハルにおいては,動因低下が重要な仲介変数となった。しかし,ハルはトールマンのような目的論的説明と創発主義(emergentism)を認めず,一次的な公準系から仮説演繹法によって精緻な理論体系を組み上げた。
 実験的行動分析とよばれるスキナーの理論体系は,ハル同様強化説の一つだが,仲介変数の必要性は認めなかった。二過程説で,レスポンデント行動とオペラント行動を区別し,特に後者に関する成果が著しかった。オペラント条件づけの説明概念として三項随伴性を提唱したほか,方法的には,スキナー箱,単一被験体法を用い,強化のスケジュールなどの新たな研究分野を切り開いた。また,その独特の,機能的な*言語行動論にも特色がある。
 スキナーの実験的行動分析は今も一つの派をなしているが,行動のグランド・セオリーをめざした多くの新行動主義はすでに過去のものとなったといわれる。現在の行動研究では,行動の包括的理論を構成することよりも,個々の現象を個別的に説明するミニ理論の解明に重点がおかれている。◆山田恒夫

徹底的行動主義【テッテイテキコウドウシュギ】radical behaviorism
 行動分析の依拠する哲学的立場。行動分析が誕生した時にすでに存在していた,内観主義,ワトソンの「古典的」行動主義の一部を構成する方法論的行動主義とS-R 説,仲介変数を採用した仮説演繹的体系や認知主義などとの関係から,以下の点を強調する。(1) 複数の人々によって接近可能な公的事象のみを「客観性」ゆえに分析対象とする(操作主義的,論理実証主義的な定義可能性)のではなく,他人には接近できない私的事象をもその行動への効果を分析するうえで有効である(プラグマティックな定義可能性)がゆえに排除することなく対象とする。(2) 古典的行動主義以来のメンタリズムの否定(概念的行動主義)をより徹底し,心身問題について一元論に立つ。(3) 依拠する科学観を物理的科学観から生物的科学観へと移行し,科学者自らの科学的行動をも研究対象としうる方法論的な徹底性を求める。◆坂上貴之

■ 基礎心理学特論 009 行動主義 ■
ワトソンが提唱した行動主義は、行動を要素的レベル反応に分解し、複雑な行動も要素的な刺激(S)と反応(R)の関係に還元して考えることができるというものである。1920年代から1970年代まで「行動主義の時代」とされる。

▼ 1.ワトソン
アメリカの心理学者で、行動主義を提唱したことで知られる。1912年、キャッテルの招きによるコロンビア大学の講演で行動主義を提唱。ヴントの意識心理学を批判した。1915年、35歳でアメリカ心理学会(APA)の会長に就任するが、1920年、離婚問題で学会を去り実業界に転じた。

□ 1.基本的立場
心理学の目的は行動の予測とその支配であり、心理学は客観的、実験的な自然科学の一部門であるから、行動だけを問題にすべきであり、意識やない感は排除されなければならない。
行動は反応という要素からなり、反応は腺の分泌と筋肉の運動からなる。反応はそれを引き起こす刺激によって決定論的に決まる。従って、心は行動の随伴現象に過ぎない。

□ 2.ワトソンの研究
恐怖の古典的条件付け、アルバート坊やの実験が有名


▼ 2.新行動主義
新行動主義は、次の3つの思想的立場の影響を受け誕生する。
 ・哲学における論理実証主義
 ・物理学における操作主義
 ・ゲシュタルト心理学

新行動主義を積極的におしすすめたのはトールマンである。トールマンは、ワトソンの単純はS-R説に対して、SとRを媒介とする過程Oを考え、S-O-R説を提唱した。つまり、個体は特定の目標に向って指向的に行動するのであり、個体に内在する目標や状況の認知をその媒介仮定の内容として考える必要があるとした。

□ 1.新行動主義に共通するワトソンとの相違点
 ・ワトソンよりも洗練された方法論で体系的な理論構成を目指した
 ・対象を分子的ではなく、巨視的として捉えた
 ・刺激と反応の関係を機械論的にではなく、力動的に捉えようとした
 ・心理学を生理学に還元しようとせず、心理学自体にレベルで構築しようとした


□ 2.新行動主義の有名人
有名人は、トールマン、ハル、スキナーの3人。
▽ 1.トールマン
マサチューセッツ工科大学卒業後、ハーバード大学で学位を取得。ドイツ留学時にゲシュタルト心理学に触れる。SとRの間に媒介変数Oを組み込むことや、「サイン・ゲシュタルト」、「認知地図」などの概念を提唱した。
▽ 2.ハル
アメリカの心理学者。ハルの公準、動因低減説など。
▽ 3.スキナー
アメリカの心理学者で、オペラント条件付けの創始者ハーバード大学で学位を取得。スキナーは条件刺激と強化の与え方(強化スケジュール)によってすべての学習行動を説明できると考え、刺激と反応を媒介する過程を問題としなかった。スキナーにとって、個体は空虚な存在に過ぎず行動が依存しているのは直接的な環境であり、従って環境条件を統制できれば行動を統制できると考えた。

  • 臨床心理学にいる 臨床心理士指定大学院受験講座: 心理学史 004 新行動主義 >>> リンク
■ 4: 新行動主義 ■

新行動主義とは、行動主義の創始者ワトソンに続く行動主義者たちの修正・発展させた行動理論について
の総称。ハル、トールマン、スキナーなどが代表格。

ワトソンと同じく、
 ・直接観察可能な行動を対象とする
 ・刺激と反応関係によって記述する(S-R説)
ことにおいて共通する一方で、

新行動主義では、
 ・行動をバラバラな分子行動ではなく、全体として1つのまとまりをもった総体的行動とする
 ・刺激と反応の間に仲介変数を仮定する(S-O-R)
ことが特徴。

新行動主義を積極的におしすすめたのはトールマンである。トールマンは、個体は盲目的に行動するので
はなく、特定の目標に向かって進み、内在する目標や状況の認知をその媒介過程(S-O-Rの「O」)の内
容として考える必要があるとした。

ちなみに、今日では、行動主義、新行動主義という言い方よりも行動理論という用語が包括的に用いられ
ている。

※仲介変数とは
心理学的な現象を予測・説明するために、推測されるよくわかっていないカラクリ。
 
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