「出る」の多義性に関する構文文法的アプローチ

動詞の意味と構文の意味 −「出る」の多義性に関する構文文法的アプローチ(伊藤健人), 明海日本語 第8号, 2003
http://kite.meikai.ac.jp/japanese/meikainihongo/8/ito.pdf

キーワード:構文文法,動詞の多義性,構文の多義性,構文間のネットワーク

1 はじめに
 本稿は、動詞(語彙レベル)の意味特性によると考えられている多義性が「構文の意味」によってもたらされているとする「構文文法 construction grammar (Fillmore, Kay & O’Connor 1988, Goldberg 1995など)」のアプローチにより、日本語動詞「出る」の多義性を分析するものである。
 単に動詞(語彙)の“多義性”によってもたらされているようにみえる様ざまな解釈を注意深く観察してみると、実は、文中の他の要素に大きく影響されているという例が数多くある。辞書等の記述に見られる“多義”的な動詞の例文には、当該の動詞の要求するいわゆる項(argument)や、付加的要素(adjunct)及び副詞的要素による制約が認められ、用いられる文における格パターン(例えば、「−ガ−ニ」「−ガ−カラ」など)に違いが見られることが多い。我われは、意識的、あるいは、無意識的にこのような観点から文レベルの多義性を認識していると言える。
 国広(1997)は、多義語項目の記述は、国語辞書の記述で最も大きな問題であるとし、以下のように述べている。

辞書によって多義の示し方が異なる理由はいろいろと考えられる。主なものとして、まず多義を区別するときの精度の違いがある。文脈の影響を受けて違って見える語義を細かく追及していけば、多義はいくらでも数を増す。また、多義を区別するときの意味的な基準の取り方の違いということもある。・・・(中略)・・・基本義とその派生義の扱い方にも違いがあり得る。基本義ごとにその派生義を配列するか、異なった基本義からの派生義をひとまとめにして末尾に持っていくか、というようなことである。さらに、文型の違いに基づいて配列する方法もある。各語の意味的な性質に従って配列法を変えた方がよいということも考えられる。問題は複雑である。(国広1997: 174)

国広哲弥 1997『理想の国語辞書』大修館書店

伊藤健人さん(群馬県立女子大学http://www.sunfield.ne.jp/gpwu/ ←クリックすると驚く)の論文
日本語の格助詞表現の意味解釈について, 伊藤健人, 明海日本語 第7号(明海大学日本語学会 編/明海大学日本語学会), 2002
http://kite.meikai.ac.jp/japanese/meikainihongo/7/ito.pdf
主語名詞句におけるガ格とカラ格の交替について, 伊藤健人, 明海日本語 第6号, pp.45-63,2001
取り立て助詞の機能について−関連性理論を用いた考察, 伊藤健人, 明海日本語 第5号, pp.11-23,2000
「も」の意味機能:「も」のスコープとフォーカス, 言語科学研究: 神田外語大学大学院紀要 3 pp.27-41 1997
http://nels.nii.ac.jp/els/contents.php?id=ART0000879006&type=pdf&host=reoabs&lang=jp