茂木健一郎「脳の中の文学」最終回

長い手紙のような最終回でした。


茂木健一郎「脳の中の文学」(文學界 2005年7月号)
最終回 言葉の宇宙は私の人生にどう関わるのか

 先日、イギリスのオックスフォード大学に数理物理学者のロジャー・ペンローズを訪問した。
 ペンローズは20世紀の生み出した数学的天才の一人と言われる。ペンローズには、同時に文学的才もある。『皇帝の新しい心』、『心の影』、そして『現実への道』といった主著のプロローグとエピローグは、本のテーマに即した文学の小品と言える。
 ペンローズとの物理学や心脳問題を巡る会見の後で、テムズ川の畔を散歩した。その時、私の中で、微妙な和解が成立したような気がした。私の中をよぎったものが何だったのか、あの時のことをそれ以来ずっと気にしている。