盛田隆二のケータイ小説

「たがいの言い訳」盛田隆二 http://quilala.jp/mob_ex/excuse.html

 千春がワイシャツについた香りに気づいて夫を問いつめたのは、一ヶ月ほど前の夜のことだ。ムスクやアンバーなどの動物性香料がふんだんに使われた重厚な香りだった。
「満員の終電車に香水のきつい女が乗っていたんだ」
 そんな夫の言い訳を信じられず、千春は脱衣籠のワイシャツの匂いを嗅ぐようになった。哀しい習性だが仕方ない。

掲載誌:小学館「きらら」2005年10月号 http://quilala.jp/