対談を愛す その1 小林秀雄×大岡昇平 『小林秀雄対話集』

小林秀雄対話集』講談社文芸文庫

小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫)

小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫)

伝統と反逆(坂口安吾)
大作家論(正宗白鳥)
「形」を見る眼(青山二郎現代文学とは何か(大岡昇平)
批評について(永井龍男)
美の行脚(河上徹太郎)
美のかたち(三島由紀夫)
誤解されっぱなしの「美」(江藤淳)
白鳥の精神(河上徹太郎)
文学と人生(中村光夫福田恆存)
日本の新劇(岩田豊雄)
教養ということ(田中美知太郎)

現代文学とは何か(小林秀雄×大岡昇平)、122ページ

小林 「判断力批判」なんて困ったなあ、もう忘れちゃったよ。ああいう本はね、正しい事しか書いてないのだよ。みんな正しいのだ、きっと。この問「パルメニデス」を読み返したらそう思ったな。みんな正しいのだ。逃げ口なんか絶対にありはしない。そう思えばこそ読んで得するんだ、又新にね。カントの仕事は、初めから判断力というものの批判だったんだが、その限界性の方から調べ、次にその可能性の方から調べ、それから両者の調和という風に考えが進んで行ったのが僕は面白いと思う。芸術家というものは楽しみながらやっているからね、少くともカントの時代はそうだ。理性の限界も道徳の可能性も格別に気にしないで結構巧みにやって行く人間があるんだ。こいつにぶつかってカントは哲学的批判力の実験をしたんでしょう。カントは先ず調和を信じたんだ。それからやったんだ。実験が成功しないわけはない……。