「現代思想」2006年10月号 特集=脳科学の未来
「現代思想」2006年10月号 特集=脳科学の未来 ISBN:4791711548
そうか。茂木さんも「よくわからない」と思っていたのか。
まあ、わからないにもレベルがいろいろあるとは思いますが…。
from 【討議】意識とクオリアの解法(茂木健一郎+郡司ペギオ−幸夫+池上高志)
茂木 郡司がそういう議論をするときの、モデルが立っている位置がいつもわからないんだ。普通の自然科学の記述における言語の立っている位置というのは何となく世間に合意があるし、俺としてもわかるんだよ。一方、郡司はオペレーションを定義して、例えば「混同」とか「崩壊」とかいう話をする。でも普通の意味での世界に対する関わり方というのがよくわからない。普通は方程式とか、セル・オートマトンにおけるアルゴリズムのような、時間発展のダイナミクスとして関わらせるんだけど、郡司のモデルは、そのようなダイナミクスとしてシステムに明示的に関わるわけじゃないんだよね?
郡司 全ての概念装置に留保をつけるってことだよ。普通は、物理だったら粒子とか相互作用だとかが曖昧さが一切なく全部確定されてしまう。そういう留保とか、解釈とかは、全て現象を見ている観測者だけに押し込めるわけじゃない? 現象として成立するという間題は、全部観測者に委ねられてしまうわけだよね。そうではなくて、一個一個の、規定したフォークだとかコップだとか全てのものに留保がついていて、曖昧さが残っているという形で関係を構成する――というような展開にするしかないのではないかということだよ。そうでなければ、少なくともクオリアという問題は議論できないんじゃないかと思う。
茂木 それは普通の言い方で言うと、認知過程のモデルということになるんだよ。郡司は実際に認知過程を記述しているというわけではないんだよね? 世界がどうしようもない形で進行してしまっているという事実はあって、それを記述するのは物理主義でかなりうまくいっている。だからどうしようもない形で世界が進行してしまっているという事実を、どういう風にお前のモデルが引き受けているのかがわからない。たとえば、記述不安定のようなことになると、そもそも普通の意味での物理主義の記述の基盤自体が揺らいでいる、というようなことになるんだけれども。
【目次】 特集=脳科学の未来 【エッセイ】 脳をめぐる(個人的な)妄想 : 竹内薫 【討議】 意識とクオリアの解法 意識の起源と進化/ゾンビ問題/時間の綻び/オープンエンド/ 個物と集合/エンピリカル・サイエンス/クオリア=権力の構造 /シミュレーションの切り出し方/意識とクオリアの解法 : 茂木健一郎+郡司ペギオ−幸夫+池上高志 【インタビュー】 マインド・リーディング : 神谷之康 脳はいかなる存在か DBS・認知機能・植物状態・脳死状態 : 片山容一 聞き手=小松美彦 【意識】 ラディカルな身体化 神経ダイナミクスと意識 : エヴァン・トンプソン+フランシスコ・J・ヴァレラ(訳=高畑圭輔) 自由意志は存在しないか : 前野隆司 【感情/情動】 脳科学における「統計的な描像」を超えるために : 茂木健一郎 情動・感情のメカニズム 進化論的感情階層仮説の視点から : 福田正治 【言語】 ことばを生む心 : 山鳥重 鳥の歌とヒトのことば 発声の獲得と脳機構 : 岡ノ谷一夫 【運動】 浮かび上がる量子脳 : 松野孝一郎 ヒトの身体像の脳内再現と身体運動制御との関係 : 内藤栄一 【ニューロエシックス】 牢獄からの解放? 脳神経の科学、倫理、そして政治 : 粥川準二 ニューロエシックスの新しさ : 香川知晶 【哲学】 脳表面の動的発生 ドゥルーズ『意味の論理学』に即して : 小泉義之 可塑性とその分身 メタ可塑性を導入する : 美馬達哉