第5回:人間だけが言語をもっていることの不思議(岡ノ谷一夫 インタビュー記事)

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 人間の言葉の起源を探るために、150羽もの小鳥を飼っている研究者がいる。理化学研究所脳科学総合研究センターの岡ノ谷 一夫さんだ。学生時代から一貫して小鳥の聴覚や歌(さえずり)について研究してきた。大学院時代はアメリカに留学して第一人者の下で研鑽を積み、帰国してからは日本で品種改良された鳥であるジュウシマツを研究対象に選んだ。
 江戸時代から250年間に渡って家禽として育てられてきたジュウシマツは、アメリカ時代に研究してきた野生種の鳥に比べるととても複雑な歌を歌う。しかも、歌は個体ごとに違うし、個々の鳥も毎回同じパターンを繰り返しているわけではない。その複雑さに魅せられて歌を分析していくと、歌はいくつかの音要素を並べることで構成されており、その並べ方は個体ごとに決まったルール(歌文法)に基づいていることがわかった。
 では、どうして彼らは複雑な歌を歌うのか。小鳥が歌うのは求愛と縄張り防衛のためだが、どうもメスは複雑な歌を歌うオスを好むらしいのである。ということは、複雑な歌文法を編み出したオスほど、子孫を残せる確率が高くなる(これを性淘汰という)。そして、野鳥ではないジュウシマツは天敵に捕食される心配がないので、たっぷり練習して長く複雑な歌を歌うことができる。つまり、人間はジュウシマツの原種を家禽にしたことで、彼らの歌文法の進化に手を貸してきた、ということらしいのだ。