サール『MiND ―― 心の哲学』

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『MiND(マインド)――心の哲学
ジョン・R・サール著、山本貴光吉川浩満 訳、朝日出版社、2006/03
四六判 本体1800円 ISBN:4255003254

哲学から心理学・生物学・脳科学に至るまで、
多くの人の心をとらえて離さない最難問 ―― 「心とは何か」への、
第一人者による魅惑的なイントロダクション

よく知られている理論、しかも影響力のある理論が、そもそも全部誤っているという点で、心の哲学は、哲学のなかでも類を見ないテーマである。そう著者は喝破し、心についての包括的な理論と展望を精彩ある筆致で描きながら、よく知られた影響力ある理論の数々を誤りとして除去していく。世界的にもっとも高名な哲学者の一人であるサールが、現代哲学の核心へと読者を導いてくれることがわかるはずだ。

著者は心の哲学にまつわる12の問題 ―― 「デカルトが残した大きな災い」 ―― に目を向けるところから議論を始める。そして自由意志/心的因果の実際の働き/無意識の本能と機能/知覚の分析/自己の概念といったトピックにスポットライトを当て、繰り返し論じる。心身問題に関する章は本書のハイライトの一つだが、著者によれば、およそ意識というものはどんな形式であれ(のどの乾きからマラルメの詩の翻訳で悩むことに至るまで)、ニューロンのふるまいによって引き起こされ、無数のニューロンから成る脳のシステムのなかでリアルなものとなるのである。同時に、意識という概念に関する重要なポイントは、その主観的な一人称記述の特徴を理解することであり、このポイントは私たちが三人称の客観的な言葉で記述し直すと失われてしまう、そうサールは主張する。

「自分自身が心の哲学について学ぶ際、最初に手に取りたいと思えるような本を書こうと思う」――言語哲学から出発し、近年は心の哲学においても精力的な研究と発言を続けるアメリカの哲学者ジョン・R・サール。哲学者としての円熟味を増したサールが、はじめて一般読者への入門書を書き下ろしました。

昨今の脳ブームは「脳を解明しさえすれば人間の心も説明できる」という風潮すら感じられます。しかし、心と脳の関係とは、果たして入力信号のオンとオフのように単純なものだったのでしょうか? サールはこの問題――「心脳問題」がさまざまな誤解のもとにたてられた擬似問題であることを指摘します。

従来の心的/物質的という二元論を廃し、因果的な還元/存在論的な還元、一人称的な存在論/三人称的な存在論という区別を新たに導入した点は本書の肝と言えるでしょう。

これにより、ミステリアスなものとして扱われがちな心を、胃の消化と同様、自然現象のひとつと捉え直し、現代の科学的知見との整合性をはかる――それがサールの提唱する「生物学的自然主義」なのです。

【目次】
第1章 心の哲学が抱える十二の問題
第2章 唯物論への転回
第3章 唯物論への反論
第4章 意識1―意識と心身問題
第5章 意識2―意識の構造と神経生物学
第6章 志向性
第7章 心的因果
第8章 自由意志
第9章 無意識と行動
第10章 知覚
第11章 自己


【著者紹介】 ジョン・R・サール
カリフォルニア大学バークレー校哲学科教授。1932年、米国コロラド州デンバー生まれ。1959年、カリフォルニア大学バークレー校に赴任、1967年より同教授として今日に至るまで教鞭をとる。言語哲学心の哲学を主軸に、現在も第一線で研究・発表をおこなう。2004年、「心の哲学」にかんする業績にたいし米国人文科学勲章を受章。『言語行為 ―― 言語哲学への試論』(勁草書房)『表現と意味 ―― 言語行為論研究』(未邦訳)『志向性 ―― 心の哲学』(誠信書房)『心・脳・科学』(岩波書店)『心の再発見』(未邦訳)『意識の謎』(未邦訳)ほか著書多数。


【関連リンク】哲学の劇場 http://www.logico-philosophicus.net/works/002_Mind.htm