80年代のおいしい生活

from サプリメント遁走

<妙に良かった>といえば、中森明夫の哀愁あふれる金井美恵子『目白雑録』書評を紹介していなかった。

生活の美学者としての作家、卓抜な人性批評家(モラリスト)が日常の内にひらりと鋭い批評眼を光らせる。その真髄がファミレスとコンビニ食とB級アイドル映画を主食とする新人類アガリのオタク・ライターに味わえようはずがない(私の住む新宿から目白まで、たった三駅なのに?)
 「悪口」の精度に椅子から転げ落ちる「永遠の天才少女」の批評眼の恐ろしさ『週刊朝日』8月27日号)

8月27日号は、先週号だから店頭にないな。。金井美恵子『目白雑録(ひびのあれこれ)』ISBN:4022579234

ライターズデンブックスの一発目となる宮台氏藤井氏との鼎談本『新世紀のリアル』(飛鳥新社)(→amazon)のあとがき「世紀末の句点(モラル)から新世紀の読点(リアル)へ!」で、中森氏は自分が形にしたものに対してか、時代と共振している自分に対してか、昂揚感に満ちた文章を書いている。

80年代のある日のことだった。渋谷の街角に貼られた「おいしい生活。」のポスター。そこに一人の少女がつかつかと歩み寄り、手にしたペンで何ごとかを書き込んでいる。最後の「。」を「、」と書き換え、さらに「高くつく」と続けた。「おいしい生活、高くつく」
……いっぺんに風景が変わったように見えた。あの瞬間の鮮やかな印象はいまだに忘れられない。