『仕事のやり方間違えてます 成功を手にする「理系思考」10の法則』

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『仕事のやり方間違えてます 成功を手にする「理系思考」10の法則』宮田秀明 著、祥伝社、2004 本体1600円 ISBN:4396612117


たまにはブロガーらしく読書メモをとってみる。すでに「UBブックレビュー」で北原秀猛さんが優れたレビューをアップしているので参考にしてもらいたい。
http://www.utobrain.co.jp/review/2004/080200/

また、宮田秀明氏の前著『プロジェクトマネジメントで克つ』のまとめがOutLogicに掲載されている。本書とかなりかぶる内容と思われる。こちらも参考にしてもらいたい。
http://www.outlogic.co.jp/modules/xfsection/article.php?page=1&articleid=16

プロジェクトマネジメントで克つ!

プロジェクトマネジメントで克つ!

追記
本書(『仕事のやり方間違えてます』)は面白いのだけれど、本書の主張(特にリーダーシップに関わる話)が普遍性を持ち得ない理由は、本書で述べている仕事のやり方が "頭(かしら)が宮田秀明氏だったからうまくいったのではないか" という疑念が頭(あたま)から去らないからである。以下に『心理学辞典』「観察」の項を引用するが、下線部で示した欠点があてはまりそうだ(これは「認識論の誤謬」とでも言ってもいいだろう)。自らが変数になった場合の組織動学の記述はもっと慎重に行うべきだと思われるのである。

【参考】有斐閣 心理学辞典より

観察【カンサツ】observation
 観察は,どのような科学においても用いられる最も基本的な方法であり,他の多くの研究方法の基礎ともいえるものである。心理学において観察法(observational method)という場合は,実験法や調査法,検査(テスト)法とは異なり,基本的には観察対象者の内的表現を要求せず,観察者が第三者的立場から客観的に,対象者の行動を見て,それを記録していく研究方法をいう。この場合,対象者の行動に何も統制を加えず,生活空間内での日常行動をそのまま観察することを自然観察法という。また実験的観察法は研究目的に沿って,観察の対象となっている事態に対し何らかの条件統制を加えて観察する方法で,実験法と基本的に変わらないことも多い。しかし,観察すべき対象が複雑な社会的行動などであった場合,統制があまりゆきすぎて,日常性から遊離しすぎないように配慮される点や,観察カテゴリーの選択や記録方法等に注意が必要な点などに相違が見出される。

【自然観察法】 通常,観察法といえばこれをさす。これは観察対象に何の制限もせずに行動のすべてを観察し,記述することをいう。日常的な家庭,育児・教育機関での子どもや養育者,教師の行動記録や臨床心理学で用いる面接場面の応答を言語化した記録,また,親などが記録した生育史などがこれに当たる。この場合,観察者は第三者的に事実の客観的記述をするのが望ましいが,観察者自身もその状況の構成員の一人であるがゆえに,事態が不自然に変化したり,観察者の主観等によって記録に偏りが生じたりしやすい短所がある。そこで,観察者そのものをあえて条件に入れて観察する「参加観察法」が採用されることもある。また,観察では,得られた記録を数量化しにくいといった側面もある。しかし,系統だった観察や実験,調査の前段階として,観察対象を包括的に把握し,分析すべき問題を探る予備的研究方法としては優れた方法と考えられている。

【組織的観察法】 研究目的がある程度焦点が絞られていれば,どのような条件でどのような行動を観察対象とするかなどをあらかじめ決定し,観察後に数量化しやすい形でデータを収集することができる。データの採集の仕方としては,たとえば場面を特定して観察する場面見本法や,ある特定の行動のみに注目して,その行動の生起する条件や,生起のプロセスなどを詳しく観察する行動見本法,一定時間ごとに目的としている行動が生起するかどうかを観察する時間見本法などがある。

【実験的観察法】 自然観察法も組織的観察法も,観察すべき行動や社会状況などがはたして生起するかどうか予測不能であるということや,あまりにもたくさんの要因によって構成された事態であるので,ある特定の行動の原因について検討するといった分析がなされにくいという状況がある。実験的観察法は,これらの欠点を補い,上記のような観察から得られた仮説を明確な条件の統制によって客観的に検証する際に用いられる。しかし,あまりにも人工的な操作は,実際とはかけ離れた行動の生起を促してしまう危険があるため,実験といえども,できるだけ現実の場面に近づけた状況を設定するよう配慮する必要がある。
 近年,ビデオやコンピュータ関連機器の進歩が著しく,従来の観察法では捉えきれなかった微妙な行動特徴までも解析できるようになった。



以下、『仕事のやり方間違えてます』より。

▼5ページ
「よくいわれているように、仕事がうまくいかない、失敗する原因は、ほんとうにその人
の能力の問題なのでしょうか?
 経験から導き出された私の“解”は、それとはかけ離れたものです。
「たくさんの人が、仕事のやり方を間違えて、ほんとうの力を生かしていない」
 答えはこの一言につきます。


▼116-117ページ
 デザインは難しい仕事だ。建築のデザインは、私たちには楽な仕事にさえ見える。
芸術的な崇高さの中に、ともすると独善や甘えが見えることがあるからだ。
 もちろん、機能的に優れたものは美しい。しかし、美しいものは必ずしも機能的に
優れたものではない。
 私たちは、究極の機能をデザインしなければならない。少しでも甘えがあると失敗する。
結果はレースで冷徹に示される。言い訳など誰も聞いてくれないことは、みんな承知のう
えだ。
 究極の機能デザインを追求するため、シミュレーションの次に模型実験がある。この二
つを繰り返し、繰り返し、つまり、デザインのスパイラルを何回も回して、最終的な答え
になるのだ。そして、レース艇で、その最高の機能を発揮させなくてはならない。
 このスパイラルをつなぐのは、科学に裏付けられた数字だけだ。

「形容詞を使った説明をしないように」 
「大きいとか小さいとかじゃ、何をいっているかわからない。数字で説明するように。
 0.1度艇の傾きが違ったら、勝敗が入れかわってしまう世界で仕事をしているんだ」
「『思います』というのはやめてくれ。君が思ったから正しいという保証はなにもない。
 論理で正しいということを説明してくれ」

 新しいデザインを求めるため、何度も精鋭10名のデザイン・チームで議論する。始め
の段階では、私は厳しいまでに科学的論理性を、若いメンバーに叩き込んでいった。

 デザインを教えることは難しい。しかし、基本は正しい科学的な論理の構築なのだ。
 論理を重ねていく訓練が、デザインのための構想力を作る。

 ⇒なるほど。工学屋さんらしい意見でありますね。


▼150ページ
 ある目的を完遂するためにチームを編成するとき、メンバーの必要条件は二つあります。

1. 目的に対して情熱を持つこと
2. 目的達成に貢献できる能力を持っていること

 協調性などを十分条件として加えてもいいのですが、この二つさえあれば、特になくて
もかまいません。
 共通のビジョン(目的)を共有して、情熱を持って取り組み、実際に達成する力があれ
ば十分なのです。
 チーム全員が気の合った人で構成され、円滑な人間関係を築くことができれば、チーム
の運営は楽でしょう。協調性の優れた人でチームを構成すれば、よいチームができると思
われるかもしれません。
 しかし、このような考え方は、ほとんど間違っています。
 趣味のグループや同好会なら、こんなチームの作り方もいいでしょう。しかし、このよ
うなグループは価値を創造することを目的としていません。チーム、つまり、しっかりし
た目的のために協働する人たちの集まりとは呼べません。穏健で協調的であることが、難
しいプロジェクトで価値を生み出すことはありません。

 ⇒「仲良しクラブ」はプロジェクトチームにならない、というのはわかるが、ここまで
  「協調性」をムダ、不要!と言ってしまうのは極端すぎる気がする。本書の事例であ
  るアメリカズカップ出場のためのヨット製造の経緯を読んでいると、協調性がない人
  たちの集まりとはとても言えない。きっと、あえて批判しているのだと思う。


▼210-211ページ
 なにごとにもライフサイクルがあります。誕生、成長、成熟、減速、衰退の過程があり
ます。一つ一つの仕事やプロジェクトにもあるのです。
 成長から成熟の段階で、成果を出さなければならないのです。減速や衰退の段階で、成
果を出そうとすることには無理があります。
 世の中には無数のライフサイクルが生まれ、成長し、成熟し、衰退しています。これら
が全部総合されて、社会が形成されています。
 イノベーションとは、新しいライフサイクルを開始することだったり、または成長・成
熟したライフサイクルから、誕生して成長しようという別のライフサイクルに飛び移るこ
とです。

 ⇒このライフサイクルの説明は、いわゆる「雁行型モデル」のことを指していると思わ
  れるが、「別のライフサイクルに飛び移ること」をイノベーションと呼んでいいのか
  どうかちょっと疑問。
  ※関連用語:雁行形態(Wild Flying Geese)


▼18-20ページ:社会人でも同じです。「給料をもらうための仕事」をするのではなく、
「価値を創造する仕事」をすることを考えると急成長します。

 仕事は人生の大切な一部です。
 楽しくいい仕事をして、給料を倍もらって、社会の役に立ちたいものです。

 そのためには、次の三つのことをお勧めします。

1. 「好きな仕事をしたい」と思わないこと
2. 「価値」と「価値の連鎖」を知ること
3. 正しい「仕事の方法」を身につけること

「好きな仕事をしたい」、「自分に合った仕事を探しています」。
(…)もっともなような気もしますが、これだけでは、ほんとうに楽しい仕事をして、
給料も倍にして、ということは実現しません。なぜなら、仕事とは価値を作り、それを
“他人”の役に立てなければならないからです。
 もし、自分の役に立つことをするだけであれば、それは仕事とは言えません。(…)
誰か他人の役立つことができた場合にだけ、それを仕事というのです。
(…)「役に立つ」といういことは、「価値を人に与えること」なのです。(…)
 そのための第一歩は、少し逆説的だと思われるかもしれませんが、「楽しい仕事をしたい」、
「好きな仕事をしたい」という考えを一度捨てることから始めてみることです。
(…)
 厳しいようですが、もし「好きな仕事をしたい」としか考えられないとしたら、永久に
ほんとうのプロになれません。

 ⇒反論はいくらでもできるが、そういう面もあるのは確かだろう。


▼23ページ:すべての仕事は、「プロジェクト」と「ルーティン」に区別できます。
「プロジェクト思考」で仕事をすると、価値が連鎖を引き起こして、たくさんの人の
利益になります。しかし、「ルーティン」は、一対一の取引、または契約関係しかなく、
価値を広げません。
「プロジェクト」には「創造性(creativity)」があります。
 新しい価値が生まれ、創造の喜びや達成感を得ることができます。(…)
 プロジェクトの比率が低すぎると、仕事がつまらなくなります。ルーティンだけやって
いると、スキルアップできず、ますます仕事がいやになるという悪循環が発生します。

25ページ:上司が、プロジェクト思考できない人であれば、部下に対して、ルーティン
の仕事にたくさんの資源を割くように命令するかもしれません。ありそうな光景です。
困ったことに、こういう上司は、プロジェクトの周りに次々と壁を作ってくれます。
そうしながら、俺が責任者監督者だといばったりします。

27ページ:トヨタ自動車から始まった「カイゼン」運動は、「ルーティン」を「プロジェクト」
として起動し、大きな成果を上げています。(…)「流れ生産方式」をやめ、「セル生産方式」
に変えている生産工場もあります。数人のグループが、組み立ての全工程を担当する方式です。

【「カイゼン」は、小さい改良などの積み重ねで成果が得られる、「プロセス・イノベー
ション」(生産・物流などの過程の革新)のプロジェクトの例でしたが、】もっと価値の創造
が大きいのは「プロダクト・イノベーション(製品革新)」のプロジェクトです。(…)
【しかし】「プロダクト・イノベーション」では、「仕事の方法」を間違えて失敗する例が
たくさんあります。


▼43ページ:ビジョンには、必ず優先関係があります。
 大学病院では、医療技術を進歩させたいというビジョンと、人命を救いたいという二つの
ビジョンがあります。
 医療技術を進歩させるのは、人命を救う技術を高めるためですから、“人命を救う”という
ビジョンのほうが上位にあります。“医療技術を進歩させたい”というビジョンを優先させて、
あえて危険な手術法を選択し、結果として人命を失ってはいけません。
(…)
 あなたが転職すると仮定します。
 二つの会社のうち、どちらかを選択するときの意思決定も、ビジョン・ベースがいいでしょう。
どちらの会社がビジョンを持っているのだろう。私のビジョンは、どちらの会社のほうが
実現しやすいだろう。これをよく考えるのです。
 当面の給料や、当面の財務指標に惑わされてはいけません。(…)【会社は】ビジョンが
最大の無形資産と考えるといいでしょう。長く勤める気なら、少なくとも50パーセントは
このような考えで会社を評価してみるのです。

 ⇒ビジョンのない会社はだめだが、ビジョンがあっても遂行できない会社もだめなのでは?
  それを見極めるのは難しいと思いますが。